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東京地方裁判所 昭和61年(ワ)5645号 判決 1987年12月25日

原告(甲、乙、丙事件)

中莖清四郎

ほか一名

被告(甲事件)

福山通運株式会社

被告(乙事件)

春駒交通株式会社

被告(丙事件)

日動火災海上保険株式会社

主文

甲、乙、丙各事件につき

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

(甲事件)

1 被告(福山通運株式会社、以下「被告福山通運」という)は、原告ら各自に対し、一〇八四万七一七五円及びこれに対する昭和六一年六月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(乙事件)

1 被告(春駒交通株式会社、以下「被告春駒」という)は、原告ら各自に対し、二五〇万円及びこれに対する昭和六二年五月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

(丙事件)

1 被告(日動火災海上保険株式会社、以下「被告日動火災」という)は、原告ら各自に対し、二五〇万円及びこれに対する昭和六二年五月一五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

甲、乙、丙各事件につき

1 原告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

昭和五八年五月一三日午後七時一五分ころ、東京都新宿区船河原町九番地の交差点(以下「本件交差点」という)先外堀通り(以下「本件道路」という)路上において、訴外中莖満(以下「満」という)が分離前乙事件被告栗林隆(以下「隆」という)の運転する自転車の後部荷台に乗つて走行中、右道路左端に駐車中の訴外松田順一(以下「松田」という)運転に係るタクシー(練馬五五を二九七五、以下「B車」という)の右側後部角付近にその左足が当たり第二車線上に転落、転倒したため、折から同車線を走行してきた訴外白濱春正(以下「白濱」という)運転の普通貨物自動車(足立一一う八六四三、以下「A車」という)に轢過され、訴外山内外科病院(以下「山内外科」という)に収容された後死亡した(以下「本件事故」という)。

2  責任原因

(一) 被告福山通運はA車を被告春駒はB車をそれぞれ所有し、自己のため運行の用に供していた者(以下「運行供用者」という)であるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という)三条により本件事故により生じた人身損害を賠償すべき責任がある。

(二) 被告日動火災は、被告春駒との間で、B車につき、本件事故時を保険期間とする自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という)契約(以下「本件保険契約」という)を締結していたところ、同被告が前記の通り自賠法三条の保有者責任を負うのであるから、同法一六条に基づき本件事故による人身損害を賠償すべき責任がある。

3  損害

(一) 満の損害

(1) 治療費 四万四六〇〇円

山内外科に要した満の治療費

(2) 逸失利益 二五二五万四四五一円

満は、死亡時中学三年の一四歳の男子であつたから、少なくとも一八歳から六七歳までの四九年間就労し、当時の賃金センサス全年齢平均給与額(月額二八万一六〇〇円)程度の収入を得られたはずのところ、本件交通事故により右の間の得べかりし利益を失つた。そこで、その死亡時における現価を生活費控除率を五割、中間利息控除につきライプニツツ方式を採用して算定すると二五二五万四四五一円となる。

28万1600円×12月×0.5×14.947≒2525万4451円

(二) 原告中莖清四郎(以下「原告清四郎」という) 二一六一万三六二五円

(1) 満の葬儀費用 一四四万一八〇〇円

(2) 満の損害賠償請求権の相続

原告清四郎は満の父、同大森富子(以下「原告富子」という)は母である(原告らは離婚したもの)ところ、原告清四郎は、満の死亡により同人の前記損害賠償請求権のうち治療費相当分と逸失利益の二分の一相当分を相続により取得した。その総額は、一二六七万一八二五円である。

(3) 慰謝料 七五〇万円

(三) 原告富子 二〇一二万七二二五円

満の逸失利益の相続分一二六二万七二二五円及び慰謝料七五〇万円の合計

(四) 損害の填補

原告らは、被告福山通運の自賠責保険から二〇〇四万六五〇〇円の支払を受け、これを前記治療費(四万四六〇〇円)及び葬儀費用(一四四万一八〇〇円)に充当し、残額の各二分の一を逸失利益の相続分に充当した。

4  よつて、原告らは、各自残存損害一〇八四万七一七五円につき、被告らに請求の趣旨記載のとおりの金員の支払を求める。なお、遅延損害金の利率は民法所定の年五分に従うものである。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2は、(一)につき、被告福山通運はA車の、被告春駒はB車の各運行供用者であることはそれぞれ認めるが、被告福山通運は責任を争う。(二)につき、被告日動火災は、本件自賠責保険契約の存在は認めるが、本件事故についての責任は争う。すなわち、本件事故は満がその視野内にあるB車に自己の一方的な不注意で左足を当てたことが原因で発生した自損事故であり、B車の運行「によつて」生じたものとはいえないから、被告春駒には自賠法三条の責任がなく、したがつて、右責任を前提とする被告日動火災の同法一六条の責任が生じる余地はない。

3  同3の事実は不知ないし争う。ただし、いずれの被告も、被告福山通運の自賠責保険からの填補総額が二〇〇四万六五〇〇円であることは認める。

4  同4の主張は争う。

三  被告らの主張

1  免責(被告福山通運)

本件事故は、A車の進路直前に満が突然飛び出して生じたもので、白濱にはいかに注意義務を尽くしても回避不可能な事故である。同人には過失はなく、また、A車には構造上の欠陥も機能上の障害もなかつた。したがつて、被告福山通運は、自賠法三条但書により本件事故につき免責されるべきである。

2  過失相殺(被告ら)

仮に、被告福山通運、同春駒に自賠法三条の保有者責任があるとしても、本件事故は、満が、B車の傍らを通過する際不用意に左足を同車の後部に当てて転落、転倒したことに最大の原因があるのであつて、同人の一方的な過失による事故というべきであり、損害の算定に当たつては大幅な過失相殺がされるべきである。

3  消滅時効(被告春駒、同日動火災)

本件事故発生日は昭和五八年五月一三日であるところ、原告らが被告春駒に対し損害賠償請求をしたのは、右時点から四年近くを経過した昭和六二年四月の本訴提起行為をもつてである。したがつて、原告らが仮に同被告に損害賠償請求権を有していたとしても、右は、本件事故の日から三年の経過により時効消滅している。同被告は、本訴において右時効の利益を援用する。

また、原告らが被告日動火災に対し自賠責保険金の被害者請求手続(自賠法一六条)をしたのは、本件交通事故の日から三年余を経過した昭和六一年八月一五日であるから、右請求権は事故の日から二年の経過をもつて既に右請求前に時効により消滅しているものである(同法一九条)。同被告は、本訴において右時効利益を援用する。

四  原告らの認否

被告らの主張はすべて争う。

第三証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

一  請求原因1(事故の発生)の事実はいずれの当事者間にも争いがない。

二  次に、被告福山通運及び同春駒が、運行供用者であること、同日動火災が本件保険契約を締結していたことは原告らとそれぞれの被告との間に争いがないものの、被告らはその責任を争うので以下に判断する。

1  前記争いのない事実に、いずれの当事者間にも成立に争いのない甲四号証(原本の存在とも)、一二ないし一七号証、乙一号証、丙一号証、本件事故当時の本件道路状況を撮影した写真であることに争いのない乙三号証及び弁論の全趣旨によれば、本件道路は交通量の多い片側三車線の道路で、終日駐車禁止、指定最高速度時速四〇キロメートルの交通規制が行われていること、隆は自己の運転する自転車の後部荷台に満を乗せ、市谷見附方面から飯田橋方面に向かつて本件道路沿いの歩道を走行し、本件交差点付近から本件道路上に出て更に走行を続けようとしたが、偶々同交差点の飯田橋寄り横断歩道直近の第一車線上に駐車中のB車に直進を妨げられたため、右にハンドルを転把して同車の後部右側五〇~六〇センチメートルの所を通過したこと、その際、隆の身体及び自転車の車体がB車に触れることはなかつたが、足を開き気味にして乗車していた満の左足膝付近がB車の右側後部角付近に当たり、同人は転落し、第二車線上に転倒したこと(B車との接触以降の事実はいずれの当事者にも争いがない)、A車の運転者白濱は、飯田橋方面に向かつて進行し、本件交差点手前で信号待ちのため一たん停車した後発進したころから、B車の駐車状態及び隆らの二人乗り自転車の走行を認めたが、格別の異常も認めなかつたのでそのまま指定制限速度内で進行したところ、折悪しく第二車線内に転落してきた満を車体の前部左側面下部(左側ステップ下面)付近に接触させた後轢過したこと、松田は駐車禁止の指定を受け駐車が禁止されている区域(道路交通法四五条一項)であり、かつ、横断歩道の前後五メートル以内の駐停車が禁止されている(同法四四条三号)にもかかわらず、右に違反して前記のとおりB車を駐車し、前記横断歩道脇の公衆電話ボックスで電話をしていたこと、なお、白濱は本件事故につき不起訴処分とされていることの各事実が認められ、以上の認定を覆すに足りる証拠はない。

2  右認定事実によれば、B車の駐車状態は、単に前記道路交通法に違反するのみでなく、場合によつては本件のごとく自転車等の通行に危険を及ぼすこともあるのであるから、意外な事故発生防止の観点からも満の接触と相当因果関係があるものというべきであり、したがつて、本件事故はB車の運行によつて生じたものといわなければならない。満の過失は重大であるが、後に説示するとおり過失相殺の問題にとどまるというべきである。

次に、白濱は、満の転落時点ではもはや本件事故を避けることは不可能であつたと推認されるし、また、一般に満のような転落原因ないし事故を予想することは困難ではあるといえよう。しかしながら、二人乗り自転車が走行の安定性に欠け、走行中突如としてふらつき、飛び出す事態は日常経験されるところであり、しかも白濱は第一車線に駐車中のB車とこれに向かつて自車と同方向に進行する隆ら二人乗り自転車を進路前方に認めていたのであるから、本件のごとき転落事故はともかく、自車線である第二車線へふくらんでくることも考慮し、かかる事態に対処し得る運転行為を行うべきであつたといえなくはないのである。そして、仮に同人が右自転車の動向に注視し、減速措置を採る等より慎重な運転を行つていれば本件事故の回避が可能であつたことは十分推認し得るところである。してみると、前記状況の下における同人の運転行為に本件事故発生につき何らの過失もなかつたとはにわかに断定し難く、被告福山通運の免責の主張は理由がなく失当であるといわざるを得ない。

3  すると、被告福山通運、同春駒は、本件事故につき保有者として自賠法三条の賠償責任を負うものといわなければならず、右被告春駒の責任を前提とする被告日動火災の同法一六条の損害賠償責任もまたこれを肯認すべきことが明らかというべきである。

三  進んで損害について判断する。

1  満の損害

(一)  治療費 四万四六〇〇円

原告らと被告日動火災との間では原本の存在、成立ともに争いがなく、その余の被告らとの間では弁論の全趣旨により原本の存在、成立を認める甲五号証によれば、満が山内外科で四万四六〇〇円の治療費を要したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

(二)  逸失利益 二五二五万四四五一円

いずれの当事者間にも成立に争いのない甲一ないし三号証及び弁論の全趣旨によれば、満の死亡時の年齢が一四歳であること、少なくとも一八歳から六七歳までの四九年間原告ら主張程度の収入(月収二八万一六〇〇円)を得られたであろうことが認められ、同人の右逸失利益の死亡時における現価を、生活控除率を五割、中間利息控除につきライプニッツ方式を採用することを相当と認めて算定すれば、次式のとおり二五二五万四四五一円(一円未満切捨)となる。

28万1600円×12月×0.5×14.947≒2525万4451円

2  原告清四郎の損害 一九三七万一八二五円

(一)  葬儀費用 七〇万円

弁論の全趣旨及びこれにより原本の存在、成立を認める(被告日動火災との間では右につき争いがない)甲六号証によれば、原告清四郎が満の葬儀費用として一四四万一八〇〇円を支出したことが認められるところ、このうち本件事故と相当因果関係のある右費用相当の損害は七〇万円と認める。

(二)  逸失利益等の相続 一二六七万一八二五円

前掲甲一ないし三号証によれば、原告清四郎は満の父、同富子は母であることが認められるところ、弁論の全趣旨により、同清四郎は、前記治療費全額及び逸失利益の二分の一(法定相続分)の損害賠償請求権を満から相続により取得したことがうかがわれ、右認定に反する証拠はない。右総額は一二六七万一八二五円である。

(三)  慰謝料 六〇〇万円

本件事故の態様、満の年齢その他本件審理に顕れた一切の事情を考慮し、父である原告清四郎が本件事故による満の死亡によつて被つた精神的苦痛を慰謝するには六〇〇万円をもつてするのを相当と認める。

3  原告富子の損害 一八六二万七二二五円

(一)  逸失利益の相続 一二六二万七二二五円

満の母である原告富子は、満の死亡によりその逸失利益相当の損害賠償請求権を法定相続分(二分の一)に従い相続により取得した。

(二)  慰謝料 六〇〇万円

原告清四郎と同様、原告富子の慰謝料は六〇〇万円と認めるのが相当である。

4  過失相殺と損害の填補

本件事故につき白濱、松田の過失を否定し難いことは前説示のとおりであるが、他方、前記認定事実によれば、満においても、軽率にも常に走行の安定を欠く危険な自転車二人乗りで走行した上、交通量の多い本件道路に乗り出し、極めてわずかな注意で避けることができたのに不用意な乗車態勢からB車に自らの足をぶつけて転落した結果本件事故に至つたというのであるから、事故発生の主因は満にあるというべきであり、その過失は大きく、少なくとも五割を下るものではないといわざるを得ない。

ところで、原告らが本件事故につき自賠責保険から二〇〇四万六五〇〇円の支払を受け、これを損害の填補にあてていることは当事者間に争いのないところ、前記認定のとおり、本件事故による満の死亡によつて生じた損害総額は三七九九万九〇五〇円であり、これに右の過失相殺を行うとそもそも原告らが被告らに請求し得る損害賠償総額は一八九九万九五二五円にとどまることとなり、既に右自賠責保険支払金により填補され尽くしていることが明らかであつて、もはや原告らの損害賠償請求権は残存しないものといわなければならない。

四  よつて、その余について判断するまでもなく、原告らの本訴各請求はいずれも理由がなく失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤村啓)

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